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ソクラテスと生成AIは、まったく違う時代と技術だけれども、どちらも質問を使って学びを深める方法を大切にしています。ソクラテスは、対話を通じて人々が自分で考える力を養う手助けをしました。一方、生成AIは、私たちの質問に答えたり、新しい情報を提供したりして、知識を広げる手助けをしてくれます。
本稿では、ソクラテスの”問答法”の考え方から、生成AIとの賢い向き合い方について考え直してみます。
ソクラテスの問答法
ソクラテスは、今から約2400年前、古代ギリシャのアテネという都市に住んでいた有名な哲学者です。彼の名前は聞いたことがなくても、その考え方や教えは今でも世界中で学ばれています。
ソクラテスは、いつも「真実とは何か?」を考えていました。彼の一番の特徴は、「問答法」と呼ばれる教え方です。これは、相手に質問をして、その答えを引き出しながら考えを深めていく方法です。ソクラテスは、「知っていると思っていることでも、よく考えると本当に知っているのか?」と問いかけることで、人々に考える力を養わせました。
ソクラテスは、街の広場で人々と話をしながら、色々な質問をしました。例えば、「正義とは何か?」とか、「良い生き方とはどんなものか?」という難しい質問をして、みんなが自分自身で考える手助けをしました。彼は「自分が無知であることを知っている人が本当に賢い」と考えていました。
ソクラテスの問答法(ソクラテス・メソッド)の真髄は以下の3つのポイントにあります。
1. 質問を通じた探求:
ソクラテスは直接答えを教えるのではなく、相手に質問を投げかけて考えさせました。
2. 自己反省の促進:
質問を通じて相手に自己反省を促し、自分の考えを深く見つめ直させました。
3. 対話による学び:
対話を重ねることで、双方が学び合い、真実に近づくことを目指しました。
生成AIとの向き合い方
ソクラテスの問答法から学び、生成AIとの向き合い方を考えると、以下の点が重要であることがわかります。
1. 質問を重ねる
生成AIを利用する際には、単に一つの質問をして答えを得るだけでなく、連続した質問を通じて深い理解を得ることができます。例えば、「生成AIはどういう仕組みで動いているのか?」と質問した後に、「具体的にはどのようなアルゴリズムが使われているのか?」や「そのアルゴリズムの利点と欠点は何か?」と続けて質問することで、より深い知識を得ることができます。
2. 自己反省と批判的思考
生成AIが提供する情報をそのまま受け入れるのではなく、常に批判的な視点を持って考えることが大切です。ソクラテスのように、「本当にそうだろうか?」と自分自身に問いかけることで、情報の信頼性や妥当性を確認し、自己反省を通じて自分の考えを深めることができます。
3. 対話による学び
生成AIとの対話を単なる質問応答のツールとしてではなく、学びのパートナーとして捉えることが重要です。生成AIとの対話を通じて、新しい視点やアイデアを得ることができるため、積極的に対話を重ねることで、自分の知識や理解を広げることができます。
4. 生成AIの限界を理解する
生成AIは強力なツールですが、万能ではありません。ソクラテスの問答法と同様に、生成AIとの対話でも常にその限界を理解し、AIが得意とする分野と不得意な分野を見極めることが重要です。これにより、生成AIを効果的に活用しながら、過度な依存を避けることができます。
産婆術(maieutics)とは?
ソクラテスは対話を産婆術(さんばじゅつ)に例えています。産婆術というのは、ソクラテスが使った特別な教え方のひとつです。この言葉は赤ちゃんを取り上げる「お産を助ける人」、つまり「産婆さん」から来ています。ソクラテスは、対話を通じて相手の中にある知識やアイデアを引き出すことを目指していました。これはまるで産婆さんが赤ちゃんを取り上げるように、相手の内にある知恵を引き出すという意味です。
ソクラテスは、「答えを教えるのではなく、質問をして自分で考えさせることが大事だ」と考えていました。
産婆術の考え方の活かし方
生成AIと向き合うときも、産婆術の考え方を活かすことができます。以下の方法を試してみてください。
- 質問を重ねる: 生成AIに一つの質問をするだけでなく、続けて色々な質問をしてみましょう。例えば、「犬について教えて」と聞いた後に、「どの種類の犬が一番大きいの?」や「犬はどうやって人の気持ちを感じ取るの?」などと質問を続けることで、より深い知識を得ることができます。
- 自分で考える: 生成AIの答えをそのまま受け取るのではなく、「本当にそうかな?」と自分で考えてみましょう。AIの答えを元に、自分の意見や考えを持つことが大切です。
- 対話を楽しむ: 生成AIとの対話を楽しみながら、自分の中にある疑問やアイデアを引き出してみてください。AIとのやり取りを通じて、新しい発見や学びを得ることができます。
こうすることで、ソクラテスの産婆術のように、生成AIを使って自分の知識や考えを深めることができるでしょう。
“無知の知”をいつも心に
若い頃のソクラテス
ソクラテスは若い頃、様々な人と出会い、色々な話を聞きました。彼は多くの人が自分の知識や意見に自信を持っていることに気づきました。しかし、彼がその人たちに詳しく質問してみると、多くの人が実はあまり深く考えずに意見を持っていることが分かりました。
デルフォイの神託
ある日、ソクラテスの友人がデルフォイの神殿を訪れ、巫女に「ソクラテスほど知恵のある人はいない」と言われました。ソクラテスはこの言葉に驚きました。自分は特別な知識を持っているわけではないと考えていたからです。
自分の無知を知る
この出来事から、ソクラテスはさらに多くの人に質問をし始めました。政治家、詩人、職人など、様々な人に話を聞いてみましたが、どの人も自分が知っていると思っていることについて、実は深く理解していないことが多いと分かりました。そこでソクラテスは、「自分が知らないことを知っている」ことが本当の知恵だと気づきました。
無知の知
ソクラテスは、自分が何も知らないことを認めることで、常に学び続ける姿勢を持つことが大切だと考えました。これが、有名な「無知の知」という考え方です。彼は、自分が無知であることを知っている人こそ、本当に賢い人だと信じました。
ソクラテスが「無知の知」の考えに至った背景には、多くの人との対話やデルフォイの神託など、様々な経験があります。彼は自分が無知であることを認めることで、常に学び続ける姿勢を持ち続けました。この考え方は、今でも多くの人に影響を与えています。
ソクラテスの「無知の知」の考え方は、生成AIと向き合う上でも重要です。生成AIが提供する情報をそのまま受け入れず、常に批判的に検証し、自分自身の理解を深める姿勢を持つことが求められます。
このようにして、AIを使って新しい知識を得ると同時に、自分の成長も促進できるのです。