経済産業省は2024年6月28日、「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」を発表しました。この報告書では、生成AIの技術が生産性向上や社会課題解決に寄与する一方で、利活用の課題が存在すると指摘しています。特に経営層の関与の遅れや生成AIの理解不足が問題とされており、解決策として目的志向のアプローチやデータマネジメントの強化を提案しています。また、DX推進にはリーダーシップや批判的思考などのスキルが重要であり、経済産業省はこれらを支援するための環境整備を進めるとしています。
目次
- 生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル
- DX人材に求められるスキル:ビジネスアーキテクト
- DX人材に求められるスキル:デザイナー
- DX人材に求められるスキル:データサイエンティスト
- DX人材に求められるスキル:ソフトウェアエンジニア
- DX人材に求められるスキル:サイバーセキュリティ
- まとめると、DX人材になるためのスキル・考え方として必要なことは何なのか
生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル
経済産業省は、生成AI時代におけるDX推進のために必要な人材とスキルについても、詳細に取りまとめています。
報告の中で、変化に対応し続けるマインドセットやデジタルリテラシー、プロンプトの習熟、問いを立てる力が重要視されています。さらに、生成AIを効果的に活用するためには、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティといった専門人材のスキル強化が不可欠であり、これらの人材が組織的に生成AIを活用してDXを推進することが求められています。以下に、生成AI時代のDX推進に必要な人材やスキルについての経済産業省の報告を抜粋します。
経済産業省 「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」~変革のための生成AIへの向き合い方~ を取りまとめました
- 生成AIの業務での活用により知識や技術が補填されるため、DX推進人材はより創造性の高い役割としてリーダーシップや批判的思考などパーソナルスキルやビジネス・デザインスキルが重要となる
- DX推進人材には「問いを立てる力」や「仮説を立て・検証する力」、に加えて「評価する・選択する力」が求められる
- 求められるスキル
・ビジネスアーキテクト:選択肢から適切なものを判断する選択・評価する力
・デザイナー:独自視点の問題解決能力、顧客体験を追求する姿勢
・データサイエンティスト:利活用スキル(使う、作る、企画)、背景理解・対応スキル(技術的理解、技術・倫理・推進の各課題対応)
・ソフトウェアエンジニア:AIスキル(AIツールを使いこなす)、上流スキル(設計・技術面でビジネス側を牽引)、対人スキル
・サイバーセキュリティ:AI活用の利益とリスク評価、社内管理スキル、コミュニケーションスキル
横文字5つのスキルがここでは大きく注目されています。ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ…。
それぞれのスキルについて、詳しくみていきましょう。
DX人材に求められるスキル:ビジネスアーキテクト
現代企業の中で、ビジネスアーキテクトは戦略を具現化し、効率的なビジネスモデルとプロセスを設計する重要な役割を担っています。生成AIの進化に伴い、この専門職の価値はますます高まっています。以下に、ビジネスアーキテクトのスキルとその重要性を詳しく探ってみましょう。
生成AIの導入とその効果
ビジネスアーキテクトは、生成AIを活用することで、企業戦略の立案をより効率的かつ効果的に行うことができます。生成AIは、大量のデータを迅速に分析し、重要なインサイトを提供するため、市場調査や競合分析に大きな力を発揮します。また、ユーザー調査の設計や結果分析を通じて、顧客のニーズを的確に把握し、新しい製品やサービスの開発に役立てることができます。
ビジネスアーキテクトの本質的な役割
ビジネスアーキテクトの価値は、ビジネス変革を通じて高い付加価値を生み出すことにあります。具体的には、目標設定、ビジネスモデルの設計、ビジネスプロセスの最適化が主な任務です。生成AIを取り入れることで、これらの業務を迅速かつ正確に遂行することが可能となります。さらに、プロダクトマネジメントスキルを持つことで、継続的な価値向上を図ることが求められます。
求められるスキルと能力
生成AIを駆使してビジネスのアイデア創出や仮説立案を効率化することが期待されますが、適切な選択をするためには経験に基づいた判断力が重要です。ビジネスアーキテクトは、生成AIが提供するデータや分析結果を基に、最適な戦略や施策を選び出し、実行に移す能力が求められます。これには、ビジネス全体を見渡し、長期的な視点で意思決定を行う力が必要です。
未来へのビジョン
これからの時代、企業の競争力の源泉はデジタル変革を推進する人材にあります。ビジネスアーキテクトは、生成AIを活用しながら、自社のビジネスドメインに精通したデジタル人材としての役割を果たすことが求められます。これにより、企業は新たなビジネスチャンスを創出し、持続的な成長を実現することができるでしょう。
生成AI時代において、ビジネスアーキテクトは企業のデジタル変革をリードする不可欠な存在です。生成AIを効果的に活用し、ビジネスプロセスの管理と変革を推進するスキルを強化することで、企業は生成AIの恩恵を最大限に享受し、競争力を高めることができるでしょう。
DX人材に求められるスキル:デザイナー
生成AIは、デザイン業務の多様なプロセスに革新をもたらします。データに基づくペルソナの作成やカスタマージャーニーの設計、プロトタイプの開発、デザインリサーチの実施、クリエイティブプロセスの変革、ファシリテーションなど、多岐にわたる活用が期待されています。
生成AI時代のデザイナーの役割と価値
生成AIの進化により、新しい可能性が次々と生まれる中、デザイナーはその動向を常に注視し理解することが求められます。技術の発展について深く理解するのは難しいものの、重要なポイントを掴むことがデザイナーの競争優位性となります。また、生成AIによるUX/UIの向上により、より高度なユーザー体験が求められる時代に突入しているため、デザイナー自身が新しい体験を積極的に学び取り入れることが重要です。
デザイナーの本質的な役割として、課題の特定や意思決定がますます重要になります。何を課題とするか、どのような解決策を選ぶかが、デザイナーの価値を左右します。
今後求められるスキルセット
生成AIにより、多くのUIが標準化される中で、合理的な問題解決だけでは競争優位性を維持することは難しくなります。独自の視点からユニークな問題解決を行う能力が、これまで以上に重要になります。顧客やユーザーの困りごとやニーズを深く理解し、技術の適切な組み合わせを見つけ、持続的に使用される価値を提供する姿勢が求められます。
未来の展望と示唆
生成AIは将来的にデザイナーの一部業務を代替する可能性が高いです。そのため、人間が対応するのは、生成AIが処理できない例外的なケースや特殊なニーズに対する対応となります。デザイナーは、AIが手に負えない複雑な問題や特別なオペレーションにフォーカスすることで、価値を発揮することが期待されています。
DX人材に求められるスキル:データサイエンティスト
生成AIの導入により、データサイエンティストの業務は一部自動化され、効率が向上します。例えば、分析の企画・設計段階でのアイデア出しや関連資料の要約と要点抽出に役立ちます。さらに、実際の分析作業では、オープンデータの収集、ダミーデータの生成、Pythonコードの作成などにも生成AIを活用できます。分析結果をまとめる際には、グラフの作成や報告書の生成なども自動化でき、全体の作業効率を大幅に向上させます。
データサイエンティストの本質と役割
データサイエンティストの核心的な価値は、「データから価値を創出し、ビジネス課題に答えを提供する」ことにあります。この専門性は依然として重要であり、データサイエンティストが中心的な役割を担うことに変わりはありません。
必要とされるスキルセット
一般財団法人データサイエンティスト協会は、データサイエンティストに求められるスキルを体系的に整理したスキルチェックリストとタスクリストを提供しています。ここでは、AIの活用スキルが「利活用スキル」と「背景理解・対応スキル」の二つに大別されています。
- 利活用スキル:AIを使いこなし、ファインチューニングや実装・評価を行い、企画を立てる能力。
- 背景理解・対応スキル:技術的な理解、技術課題への対応、倫理的な問題への対応、推進課題への対応能力。
未来への示唆
AIの活用スキルは、ビジネス力、データサイエンス、データエンジニアリングの各分野のスキルが高度に融合したものです。データサイエンス関連プロジェクトは、専門性が高く、通常はチームで対応します。しかし、AI活用プロジェクトでは多岐にわたるスキルが求められ、新しい技術やデバイス、AIサービスの登場に迅速に対応し、それらを活用して新たなサービスの企画・設計やデータ活用戦略を立案することが重要となります。
このように、生成AIはデータサイエンティストの業務効率を飛躍的に向上させる一方で、データサイエンティストには高度な専門知識と柔軟な対応能力が求められる時代が到来しています。
DX人材に求められるスキル:ソフトウェアエンジニア
生成AIはエンジニア領域においても、業務効率を劇的に向上させ、仮説検証のサイクルを迅速に回すことができます。具体例として、要件定義、設計、コーディング、テストなどの各工程で、生成AIは要件の抽象化や逆エンジニアリング、ソースコードの生成、テストデータの作成をサポートします。これにより、ソフトウェアエンジニアの効率が飛躍的に向上します。
生成AIの登場により、タスクが自動化される一方で、エンジニアには複雑なアーキテクチャ設計や生成AIが作成したコードのレビュー能力が求められます。エンジニアには、AIスキル、上流スキル、対人スキルの3つのスキルセットが重要になります。AIスキルでは、AIツールの活用と適切な指示出しが必要です。上流スキルでは、創造的な設計や技術面でのビジネスリードが求められます。対人スキルでは、コミュニケーション能力が重要です。
さらに、コンピューターサイエンスの深い理解とAIの生成物への適切な指示も重要です。生成AIツールは、新人教育を加速し、ミドル級エンジニアへの成長期間を短縮します。エンジニアは、生成AIによる能力拡張を活かし、一人で複数人分の仕事をこなす意識を持つことが求められます。
DX人材に求められるスキル:サイバーセキュリティ
生成AIはサイバーセキュリティ業務の効率化を推進します。プログラム作成や情報集約、ヘルプデスク業務などが自動化される一方、生成AIを利用したサイバー攻撃や情報の機密性管理の課題が増加しています。これにより、セキュリティ範囲が拡大し、倫理や法的リスクも高まっています。
生成AIを利用したセキュリティツールの普及により、業務効率は向上しますが、依然として人間の専門知識と経験が不可欠です。
今後、サイバーセキュリティ担当者には、生成AI利用の利益とリスク評価、ポリシー設定、システム設計・運用スキル、そして多岐にわたるステークホルダーとのコミュニケーション能力が求められます。これにより、セキュリティ人材は生成AIを安全に利用できる環境を提供し、ビジネスへの貢献を高めることが期待されます。
まとめると、DX人材になるためのスキル・考え方として必要なことは何なのか
結局のところ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための人材には、多岐にわたるスキルと共通する考え方が求められます。まず、技術スキルが重要です。DX人材は生成AIやデータサイエンス、クラウドコンピューティングなど、最新の技術に精通している必要があります。深い部分は生成AIに代替してもらうとしても、技術的な全体像やトレンドを把握する能力は求められていくでしょう。
ビジネス理解
次に、ビジネス理解も不可欠です。技術を単に知っているだけではなく、それをビジネスの文脈でどのように活用するかを考えられることが重要です。ビジネスモデルや市場動向、顧客ニーズを深く理解し、それに基づいて技術を効果的に活用する能力が求められます。
コミュニケーションスキル
さらに、コミュニケーションスキルも大切です。DXは組織全体に影響を及ぼすため、異なる部門や専門領域の人々と協力する能力が不可欠です。技術の専門用語を平易な言葉で説明し、関係者全員に理解させることができるコミュニケーション能力が必要です。
プロジェクト管理能力
加えて、プロジェクト管理能力も求められます。DXプロジェクトは複雑で多岐にわたるため、効果的に計画し、実行し、監視する能力が重要です。タイムラインの管理、リソースの配分、リスク管理など、プロジェクトの成功に必要なスキルを持つことが求められます。
倫理的思考・法的知識
また、倫理的思考と法的知識も欠かせません。デジタル技術の活用には、プライバシーやデータ保護、法的規制に対する理解が必要です。倫理的な問題に対する感度を持ち、法的な枠組みを遵守する姿勢が求められます。
これらのスキルに共通する考え方として、「柔軟性」と「継続的学習」が挙げられます。技術の進化は速いため、常に最新の情報をキャッチアップし、変化に対応する柔軟性が重要です。また、既存の知識にとどまらず、新しいスキルや知識を継続的に学び続ける姿勢が必要です。さらに、DXは単なる技術導入ではなく、組織全体の変革を伴うため、全体を見渡し、戦略的にアプローチする視点を持つことが求められます。これらのスキルと考え方を持つことで、DX人材は組織の変革を成功に導くことができるでしょう。